初めてのアルバイト体験
あれは、今でも鮮明に思い出せる。**1987年、昭和62年の夏。**私は高校三年生、17歳だった。受験勉強に追われる日々の中、私は初めてアルバイトというものに挑戦した。
近所にあるIC関連会社で、製造された製品の不良品チェックをする仕事だった。時給は470円。今思えば、決して高くはない。でも、当時の私にとっては、自分の力で初めてお金を稼ぐということが、何よりも新鮮で、誇らしいことだった。
新しい仲間たちとの出会い
夏休みということもあり、同じタイミングでアルバイトを始めた高校生が他にも三人いた。後藤君、安武さん、出口さん。男一人、女二人。みんな、どこか緊張した面持ちで、会社の玄関に集まっていた。私たちは一緒に入社したものの、配属先はバラバラだった。私は、製品の不良品チェックを担当する部署に配属された。
クリーンルームでの仕事

その部署は、クリーンルームと呼ばれる特殊な場所だった。埃一つも許されない環境で、まるで宇宙服のような白いクリーンスーツを身にまとい、顔もマスクで覆う。唯一見えるのは、目だけ。最初は、その格好に戸惑い、息苦しささえ感じた。
由美子さんとの出会い
私に仕事を教えてくれたのは、由美子さんという19歳の女性だった。年齢は私より少し上。クリーンスーツに身を包み、マスク越しに見える大きな瞳が印象的だった。最初に目が合った瞬間、私は雷に打たれたような衝撃を受けた。

「この人、絶対かわいい人だ。」
私はそれまで女性と付き合ったこともなく、恋愛経験もゼロに等しかった。それなのに、由美子さんの目を見ただけで、心が一気に高鳴った。どう表現すればいいのだろう。まるで、映画やドラマで見る「一目惚れ」というやつだろうか。自分でも驚くほど、彼女に惹かれていくのがわかった。
日々募る想い
アルバイトに行くのが、毎日の楽しみになった。由美子さんは、私の隣に座り、丁寧に仕事を教えてくれる。製品のチェック方法、注意すべきポイント、クリーンルームでのマナー。どれも初めてのことばかりで、最初は戸惑ったが、由美子さんの優しい声と、時折見せる笑顔に、私はすぐに打ち解けていった。
日を追うごとに、彼女への想いは強くなっていった。これまでにも、女の子を好きになったことはあった。でも、それとは比べ物にならない。仕事中、ふと視線が合うだけで、胸がドキドキした。マスクで隠れているから、表情はわからない。でも、目だけでこんなにも心を揺さぶられるなんて、思いもしなかった。
「君の瞳に恋してる」なんて、どこかの歌のフレーズみたいだけど、まさにそんな感じだった。目しか見えないからこそ、余計に想像が膨らみ、彼女のことをもっと知りたい、もっと近づきたい、そんな気持ちが募っていった。
きっと、由美子さんも私の気持ちに気付いていたと思う。仕事の合間に、ふとした仕草で私を気遣ってくれたり、さりげなく話しかけてくれたり。彼女の優しさが、私の心をさらに温かくした。
運命の休憩時間
そんなある日、由美子さんが突然言った。
「一緒に休憩行こっか。」
驚いた。由美子さんはいつも、同僚らしい女性たちと休憩に行っていたからだ。まさか、自分が誘われるなんて思ってもいなかった。心臓がバクバクして、うまく返事ができなかったけれど、私はうなずいて彼女の後をついていった。
クリーンルームを出て、休憩室へ向かう。自販機の前で、由美子さんがコーヒーを二本買い、「はい、おごりね」と微笑みながら一本を差し出してくれた。その瞬間、彼女はマスクとクリーンスーツの頭部分を外した。
初めて見た素顔
私は、息を呑んだ。
想像していた以上に、由美子さんは美しかった。大きな瞳、すっと通った鼻筋、柔らかそうな唇。クリーンスーツの下から現れた長い髪が、肩にさらりと流れる。仕草ひとつひとつが、まるで映画のワンシーンのようだった。
「やばっ……」

心の中で叫んだ。こんなに可愛い人が、毎日自分の隣に座っていたなんて。私は、ただただ見とれていた。
「どうしたの? そんなに見つめて。」
由美子さんが、少し照れたように笑った。私は、慌てて視線をそらし、コーヒーを一口飲んだ。けれど、心の高鳴りは収まらなかった。
青春の一ページ
あの夏、私は初めて「本気の恋」を知った気がする。目しか見えないクリーンルームで、心だけがどんどん近づいていく。そんな不思議な時間が、私の青春の一ページになった。
次回に続く――
【記憶のかけらQUEST】シリーズ
日々の暮らしの中で、ふとよみがえるあの瞬間――。
忘れかけていた記憶の断片、心に残る出来事、そして今も胸に響く感情。
「記憶のかけらQUEST」は、私自身の人生の中で出会ったさまざまなエピソードを、フィクションやノンフィクションを織り交ぜながら綴る新しい連載シリーズです。
昭和から平成、令和へと移りゆく時代の中で、誰もが一度は感じたことのある青春のきらめきや、ほろ苦い思い出、ちょっとした冒険や日常の小さな奇跡――。
そんな「かけら」たちを一つずつ拾い集め、物語として皆さまにお届けします。
このシリーズを通じて、読者の皆さんの心にも、どこか懐かしい風景や感情がそっとよみがえることを願っています。
どうぞ、「記憶のかけらQUEST」と一緒に、人生の旅をお楽しみください。




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