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青春フルスロットルーー仲間増殖中、恋もパチンコも全力疾走【第1話】

エッセイ・体験談
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【記憶のかけらQUEST】シリーズ説明

『記憶のかけらQUEST』は、人生のささやかな思い出や、誰もが胸の中にしまっている“あの瞬間”を、エッセイや小さな物語として掘り起こすシリーズです。フィクションとノンフィクションを織り込んで――懐かしさ、共感、そして小さな発見をシェアする場所。それぞれが持つ“記憶のかけら”を旅することで、新しい自分や誰かの人生の一部に出会えるかもしれません。

日々の中でふとよみがえる記憶、忘れかけていた感情、大人になった今だからこそ見えてくる“心の宝物”。記憶の断片を、物語として再体験してみませんか?
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序章

新しい場所、新しい春。専門学校に入学したばかりの僕は、頼れる友だちもまだいないまま、少しだけ孤独を感じていました。そんなとき、ひと際目立つ存在――“番長”と呼ばれるクラスメイトと出会います。ある日の放課後、彼の「稼ぎに行くとたい!」という一言から、僕の青春と少し危うい冒険の扉が開きました。

これは、“番長”との不思議な友情と、初めて足を踏み入れたパチンコ屋で体験した、大人の世界の入り口。あの日、心に灯ったスイッチが、僕の人生をどう変えていくのか――

さあ、【記憶のかけらQUEST】の新しい物語が始まります。

番長と僕と、パチンコ屋の扉

3987933_s 青春フルスロットルーー仲間増殖中、恋もパチンコも全力疾走【第1話】

あれは確か、僕が専門学校に入学して間もない春のことでした。見知らぬ土地、新しい環境。親元を離れ、毎日が手探り。教室の中では、すでに何人かが小さなグループを作り始めていて、輪の外にいる僕は、自分の存在がなんだか薄く感じられていました。今でこそ笑って話せますが、あの時期は「友達」と呼べる人すらいませんでした。

そんな中で、ちょっとだけ打ち解けたのが、見た目がいかにも「番長」っぽい雰囲気の男でした。彼の本名を今でこそ覚えていますが、当時は、皆が彼のことを自然に「番長」と呼んでいました。髪は短髪、ガタイがよく、言葉遣いもどこかぶっきらぼう。それでいて、不思議と憎めない存在でした。

ある日の放課後。ほとんどのクラスメイトが家路を急ぐ中、なぜか番長だけは、決まって学校を出て繁華街の方に向かって歩いているのを見かけました。その日もいつものように、彼を見送る形になりましたが、ふとしたタイミングで目が合ったのです。「番長~、どこ行きよっと?」と自然と声をかけた僕に、番長は「稼ぎに行くとたい!」と自信満々の笑顔で言いました。

アルバイトにでも向かうんだろうと当たり前のように思っていた僕。しかし、番長が入っていったのは、街角にあるパチンコ屋でした。

はじめてのパチンコ屋

パチンコ屋の自動ドアが開いた瞬間、鼓膜を打つような大音量、そしてキラキラしたネオン。たちこめる独特の匂い。普段の世界とは別の、どこか現実離れした空間に感じられました。全てが新鮮で、僕の心臓はちょっとだけ高鳴っていました。

番長はためらうことなく、サッとポケットから小銭を取り出し、当時は主流だった玉貸し機でパチンコ玉を買い始めました。本当に昔の話で、その頃は100円玉単位で玉が買えたんです。銀色の小さな玉が、ジャラジャラとトレイに出てくる光景がやたら印象に残っています。

彼は慣れた手つきで玉を台に流し込み、パチンコを打ち始めます。台からは忙しそうな電子音と、カシャカシャという玉のぶつかる音。遊技をしながら番長は淡々と台の全体を見渡し、流れるようにハンドルを回していました。やがて下の受け皿に玉がどんどん溜まり、溢れてきた玉はパチンコ台の下に設置された箱へ移し替えられていきます。僕は横で、おずおずとその様子を見守ることしかできませんでした。

「打ち止め」の瞬間と、換金という現実

しばらく経った頃、店内アナウンスが響きました。

『本日のビッグシューター8番台、打ち止め終了でございます。』

その瞬間の空気感が今でも忘れられません。あの頃、**「ビッグシューター」**という台が人気で、その8番台だったと記憶しています。ビッグシューターは1986年に登場し、宇宙遊泳をモチーフにした羽根モノパチンコの名機。「Vゾーン」狙いが醍醐味で、一発の大当たりが現実的な利益を生み出していました

番長は、喫煙所で一息ついたあと、淡々と玉を計数機に流し、店員さんからプラスチックの“景品”を二箱半もらいました。僕は「これって何が楽しいのか…」とまだ理解できていませんでした。しかし、番長は景品を片手にパチンコ屋の隣にある小さな窓口に向かいます。「交換所」と呼ばれているその場所で景品を渡すと、現金が手渡されました。確か、5,000円くらいになっていたと思います。

「今日、いくら使ったの?」と何気なく尋ねると、番長は「800円」と即答。僕は驚愕しました。たった数時間で、4,200円も儲けてしまったことになるのです。

大人の世界への憧れと、禁断のトビラ

その帰り道、番長は「せっかくだから」と、近所のマクドナルドで夕飯をご馳走してくれました。紙コップに注がれたジュースを飲みながら、何か“大人になった気”がした自分がいました。朝からの孤独や不安は、ほどけたように消えていき、「番長と自分は少しだけ近くなれた」と思えたのです。

ただ、そこで終わらなかったのが、この話の“地獄の第一歩”でした。初めての刺激。「自分でもできるかも」という淡い期待。「これならバイトしなくても楽に稼げる?」という誤った幻想。人は簡単に手に入る“快楽”や“報酬”に、あっという間に心を奪われるものだと、後々思い知らされることになります。

パチンコと若者、そして人生

「パチンコ」は日本文化の風景の一つです。その独特な仕組みや雰囲気は、当時の若者にとって、どこか“大人の社交場”のようにも映りました。実際、ビッグシューターのような名機は、数千円の投資で数時間のうちに大金を得ることもあり得た反面、いつのまにか依存し、大切な時間やお金、時には人間関係までも失っていく“魔性”をはらんでいます。

番長の“勝利”を間近で見てしまった僕もまた、その魅力に取り憑かれることになります。勝つ快感、偶然にもめぐってきた小さな金額、そして「自分だけは大丈夫」と信じた根拠のない自信。しかし、それがどれだけ危うい幻想だったか、この時の僕はまだ知りませんでした。

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【第2話へ続く】

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