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青春フルスロットル~ペガサスと“雅”がくれた、小さな転機~【第12話】

エッセイ・体験談
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【記憶のかけらQUEST】シリーズ説明

『記憶のかけらQUEST』は、人生のささやかな思い出や、誰もが胸の中にしまっている“あの瞬間”を、エッセイや小さな物語として掘り起こすシリーズです。フィクションとノンフィクションを織り込んで――懐かしさ、共感、そして小さな発見をシェアする場所。それぞれが持つ“記憶のかけら”を旅することで、新しい自分や誰かの人生の一部に出会えるかもしれません。

日々の中でふとよみがえる記憶、忘れかけていた感情、大人になった今だからこそ見えてくる“心の宝物”。記憶の断片を、物語として再体験してみませんか?
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モーニングシステムの終わりと、“手伝い”からの目覚め

2147657076 青春フルスロットル~ペガサスと“雅”がくれた、小さな転機~【第12話】

佐治君が陣取って仕切っていた、あのモーニングシステムの話――今となっては、すでに昔話のように思える。あの頃は、毎朝きっちりと決まった時間に店に集合し、開店と同時に一斉に台へ向かうのが、自分たちの日課だった。

大人からすれば子供だましな作戦だったかもしれないが、自分には新鮮な刺激で、言われた通り動き、ただついていくだけで何だか満ち足りていた。だが、決められたパターンの繰り返しに慣れてくるにつれ、“補欠”として割り切っていた自分の立ち位置に、少しずつ違和感が芽生えていった。

佐治君たちが築いた“システム”は、一人だけが頑張っても大した成果にはならない。誰かを巻き込み、協働して、初めて本当の意味を持つのだということも、そのうち肌で理解するようになった。朝のホール、一列に並んだ顔ぶれを見ながら、「自分の“バディ”を見つけ、いつかは自分のチームを持つ――」そんなふうに憧れ始めていた。

プロ級へ進化した目押しスキルと缶コーヒーの日常

「パチスロは目押しが命」なんて言葉が飛び交う中、最初は苦手だったリールの目押しも、今やすっかり手に馴染んでいた。トロピカーナも減り、朝イチに並ぶ店の多くはペガサス台が主流に。ギャンブルという感覚は次第に薄れ、機械的にメダルを積み上げていく作業に近くなっていた。

そんな中、思いがけず重宝されたのが“目押し”の技術だった。友人や見知らお客さんに「すいません、合わせていただけますか?」と頼まれる機会がどんどん増えた。慣れた動作で絵柄を揃えると、お礼にと缶コーヒーを一つ、また一つと差し入れられる。

気が付けば、台の上には色とりどりの缶コーヒーが並び、その景色すらも自分の日常の一部になっていた。「今日はブラック多いな」「いや、このメーカーの微糖も結構イケる」なんて、もはや飲み比べが趣味のようになり、寒い日には湯気が立ちのぼる缶にほっこりとする朝もあった。

ペガサス台での再会――夜の香りを纏う“あのお姉さん”

そんな慣れた日々のなか、新しい出来事はある日突然にやってくる。その日も、朝の任務を終えてから高設定らしきペガサス台で一人、気ままに回していた。メダルも順調に増え、このままバイトに向かおうかと思った矢先――

「すいません、いいですか」
視線を上げると、そこにはどこか懐かしい雰囲気をまとった女性。アイシャドウがほんのりと目元を際立たせ、昼間なのにどこか夜の匂いがする――。凝視しているわけでもないので、思い出せそうで思い出せない、微妙な既視感。

ためらいなく目押しを手伝い、一連の流れで顔を合わせたその瞬間、記憶が重なる。「やっと見つけました。」彼女は穏やかな笑みを浮かべる。その言葉の奥に、何かを秘めている気がした。

手渡された名刺、「雅」と書かれた文字の意味

「あぁ、あの時のお姉さんじゃないですか。」「やっと見つけたって、どういうことですか?」と少しだけ警戒しつつ尋ねる。彼女はちらりと周囲を見渡し、声を落とした。「ここじゃ話しにくいことがあるの。」不思議な緊張感が走る。

「今からバイトなんですよ。」と返しても、彼女は構わずふっと微笑み、小さな名刺を渡してきた。「雅(みやび)」とだけ書かれた源氏名。そして店名、電話番号――よく見ると、この町の歓楽街、夜になるとネオンが煌めく一角の名刺だ。

「また、あなたの都合がいい時に連絡ちょうだい。大切な話があるの。」香水とタバコの混じった微かな香りが、名刺ごしに漂ってきた。謎めいた一言とともに、予想もつかない世界の扉が目の前で静かに開いた気がした。

消えた面影、広がる歓楽街の謎

しばらくその場で名刺を眺めていると、背後から「おい、コークン!」と佐治君の声。振り向いた瞬間、先ほどまでそこにいたはずの彼女の姿はもうどこにも見当たらなかった。ホール内のざわめきとメダルのチャラチャラという音だけが、やけに現実味を帯びて響いている。

「誰や、今のお姉さん?」と佐治君がにやけて声をかけてくる。
「ちょっと知り合いです。」とだけ答え、名刺をポケットにしまいこんだ。その小さな紙片が、心のどこかでじわじわと存在感を増していく。

夜の繁華街――自分には普段縁のない世界。けれど、今こうして唐突にその入口が差し出されたことで、不自然なほど鼓動が速くなっているのが自分でもわかった。

変わり始める自分――頼られる実感と新しい一歩

気がつけば、ここ最近、“頼られる”ことが少しずつ増えている気がする。パチスロの目押ししかり、不思議な女性との再会しかり。小さなきっかけかもしれないが、それまでの「ただの補欠」としての自分――何も考えずに指示に従ってきた日々――から、なにか一歩踏み出せそうな期待が生まれてくる。

それだけでなく、他人から自分に声をかけてもらえること、それすらも新鮮で、心の奥がそわそわする。「このままでいいのか」「もっと変われるんじゃないか」――そんな思いがじわじわと膨れあがっていく。

まだ明確な答えは見つからない。でも、繰り返す日常の中で、小さな変化を感じ取れる自分になりつつあることは確かだった。

名刺のぬくもりが教えてくれた、これからの予感

そして今日、思わぬ形で手渡された「大切な話」の名刺。
ポケットにしまった名刺を、気の向くたびにそっと指で確かめる。雅さんの言葉や香り、あの一瞬の視線が、今も微かに残っている。“あの世界”は危険かもしれない、それでもなぜか、自分の中の何かが騒ぎ出していた。

パチスロ台のコインの掃き出し音。ホールの出口から差し込む昼の光。…でも、その先にはまだ見ぬ夜の世界、未知の繋がりが待っているのかもしれない。
名刺のぬくもりが示す、これから始まる新しい時代――。「何かが変わるかもしれない」と、素直に思えた自分に、小さな誇りと少しの期待を抱いていた。

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