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青春フルスロットルーーバディがいない僕と、はじまりのボーナス 【第9話】

エッセイ・体験談
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【記憶のかけらQUEST】シリーズ説明

『記憶のかけらQUEST』は、人生のささやかな思い出や、誰もが胸の中にしまっている“あの瞬間”を、エッセイや小さな物語として掘り起こすシリーズです。フィクションとノンフィクションを織り込んで――懐かしさ、共感、そして小さな発見をシェアする場所。それぞれが持つ“記憶のかけら”を旅することで、新しい自分や誰かの人生の一部に出会えるかもしれません。

日々の中でふとよみがえる記憶、忘れかけていた感情、大人になった今だからこそ見えてくる“心の宝物”。記憶の断片を、物語として再体験してみませんか?
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モーニングの10分間、仲間無き“補欠”の日々

佐治くんたち“パチスロ同盟”と行動を共にして、もう1か月が過ぎようとしていた。
平日は毎朝、きっちり決まった時間に誰よりも早く店に来て、開店と同時に“モーニング”台を狙う。僕の仕事は実にシンプルで、グループのペアにくっついてホールへ行き、要領よく10分間だけ手伝いをする。それだけ。

けれど実のところ、僕には唯一の“バディ”と呼べる相棒がいなかった。三池さん(かっちゃん)とちくりん、宮本さん(もっちゃん)とアネキ、佐治くん(ま〜りん)は各々ペアで動いている。
僕は毎日ペアに日替わりで付いていく“補欠枠”。どこかのペアの“手伝い”に徹していて、本当の意味でグループの一員という実感がなかなか湧かなかった。

でも不思議と、誰かと張り合うこともなく、小さな“家族写真”の裏側を眺めるような毎日に満足している自分もいた。

集合、中華店ミーティングとビールの味

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そんな折、佐治くんが「今夜はミーティングやけん」と号令をかけた。行きつけの中華店、僕と番長は早めに着いて煙草をくゆらせていると、店員の女の子が「先に飲みよってって伝言ですよ」とビールを持ってきてくれた。

「なんか……大人やな。」
普段は瓶ビールの一気飲みなんてできないが、今日ばかりは気分が違った。番長と一本ずつ空にした頃、佐治くんたちお馴染みメンバーが「うぃ~~す!」と入ってくる。
席について即座に注文。そのテンポがもう“プロ集団”だ。

改めての乾杯がひとしきり済むと、「ほんじゃ、まず――」と佐治くんが順に名前を呼んでいく。「もっちゃん」「かっちゃん」「ま〜りん」「アネキ」「ちくりん」……そして、「初任給のふたり、コークン(僕)と番長」まで。

「なんですの、これ?」
僕と番長だけがぽかんとする。その隙を突いて、宮本さんが「たいした金額じゃなかけど、ボーナスや」とにっこり。

50%とボーナスの謎:パチスログループの“分配”

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不意打ちのご褒美に唖然としたまま、僕は複雑なグループの分配システムを思い返す。

毎朝モーニング台をハントし、景品に交換した時点で、配当は日払い50%。もう半分は運営費としてプール。その代わり――

・グループの食事代、店移動のタクシー代、必要経費は全額“運営費”から賄われる。
・月末になると、運営費に収めた合計額のさらに50%が“月間ボーナス”として還元される。

つまり、モーニングで合計4万円換金した今月は、日払いで合計2万円受取り済みだ、さらに積立てた2万円の半分――すなわち1万円がボーナスという仕組みだ。
バイト代も合わせると、月に13万円。プレリュードのローンも余裕で払える。いつからか、もう学校のことなんて二の次になってきていた。

ハイエナの駆け引き、未経験のワザ

「モーニング以外にもみんな稼いどるで」と耳打ちしてきたのは、三池さん(勝也さん似)。
“ハイエナ”と呼ばれる裏ワザは、ペガサスのような機種の天井狙い。台の回転数なんて表示されない時代、店内をウロウロして客の投資額を感覚で測っていく。
まだ僕は“立ち回り”を学ぶのは禁止。ひたすら朝イチ10分限定のモーニング特攻部隊に徹していたが、先輩たちの手練れっぷりに舌を巻きまくっていた。

収支表が語るものと、グループ経営の夢

ミーティングでは、佐治くんが収支表を机に広げる。
グループ8人で月売上が257,000円、報酬支払額192,750円、残る運営利益64,250円。

「いずれバディ見つけて“ペア制”作って、グループ拡大してみらんね?」
佐治くんが僕の背中を押す。8人で動けば、リーダーは利益還元。今回の金額なら6万円以上。“人を動かせるやつ”には、さらにデカい夢が広がっているわけだ。

「俺らも昔はいろいろ配分で揉めたけど、今のやり方が一番や。多すぎず少なすぎず。信頼だけが基準や。」 「もし裏切りや不正が発覚したら永久追放やで。」

ニヤリと得意げな佐治くん――なぜだか、関西弁も混じる。
僕は心の奥で“リーダー像”を思い描きながら、自然とやる気スイッチが入っているのを感じた。

影響される自分、踏み出す背中

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隣席では三池さん(勝也さん似)が「佐治は他に2チーム持ってる。毎月15万~20万は稼いどるで」と、のんびりグラスを傾けている。
「宮本もグループ持っとる。俺はまあ、ややこしいのや煩わしいの苦手や……」
「とにかく稼ごうとして下手に動けば、絶対にばれるからやめときや」
「今まで何人も痛い目に合っとるし、この町で遊べんくなるしな。」
三池さんは色々教えてくれる優しい人だ。

みんなそれぞれ流儀がある。学生でありながら、すっかり“大人の世界”を楽しむ顔ぶれ。その中心で、誰よりも早く次の道筋を見据えて動く佐治くんの背中が、妙に眩しい――僕はそんな彼を、どこか憧れの目で見つめていた。

「この波に乗るなら、今のうちや。遅くなるほど同業者が増える。次の仕掛けも考えとる」
と語る佐治くん。その一言と、ビールの余韻――何か人生が新しく加速する音が、胸の奥で小さく鳴る夜だった。

“はじまりのボーナス”と思い描く未来

気づけばまわりは笑い声で満たされ、食べきれないほどの中華料理が並ぶいつものテーブル。
バディもいなくて、“補欠”のままで過ごしてきた僕にも、今日「初めてのボーナス」が手渡された。

学生の分際で、気付けば月に13万。
この先、仲間を集め“自分のグループ”を作る未来をリアルに想像するようになる。
やがて大人になる日まで――僕たちの青春は、まだまだ終わらない。

ーー

【第10話に続く】

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