心が少しだけ現実から浮いてしまう瞬間が、ふとした日中にも顔を出すことがあります。会議室へ向かう廊下を歩きながら、足音だけが自分より半歩遅れてついてきていて、「本当は行きたくない」とつぶやく心と、黙って前に進む身体とが、別々のところにいるように感じられるときです。誰かの何気ないひと言や、笑い声の温度だけがやけに鋭くて、胸の奥でまだ言葉になっていない違和感が、小さく立ち上がっては飲み込まれていきます。
本来なら守ってくれるはずの「相談」や「制度」の窓口をたたいたのに、その向こうから返ってきたのが、「大げさだよ」「ここではよくあることだから」という反応だったとしたら――心は二重に傷つきます。直接のハラスメントだけでなく、「声を上げたこと」そのものが責められ、「空気を乱した人」として扱われるセカンドハラスメントは、目に見える傷ではない分、じわじわと自尊心と安心感を削り取っていきます。やがて「自分さえ我慢すればいい」「言っても無駄だ」というあきらめが職場に染み込み、何かがおかしいと感じる感覚すら、少しずつ鈍らされてしまうのです。
今回の【暇つぶしQUEST】では、その“二重の傷”に意識の光を当てていきます。セカンドハラスメントとは何か、その具体的な場面や背景、そして被害者本人・周囲の人・組織がそれぞれどんな一歩を踏み出せるのかを、一緒にたどっていきましょう。今のあなたが、渦中にいる人であれ、誰かの「おかしいよね」に寄り添いたい人であれ、この序章が「自分の感覚を信じていい」と思い直すための小さな追い風になれば幸いです。
はじめに
企業におけるハラスメントは、現代の職場において避けては通れない深刻な問題です。かつては「泣き寝入り」や「我慢」が当たり前とされてきましたが、今では労働者の権利意識が高まり、多様性や人権を尊重する社会全体の流れによって、ハラスメントは企業経営に直結する大きなリスクと捉えられるようになっています。
しかし、実際に職場で被害を訴えた人々が直面するのは、加害者からの直接的な嫌がらせだけではありません。勇気を出して声を上げたにもかかわらず、「なぜ言ったのか」「空気を壊す存在だ」と逆に不利益を受ける現象――これがセカンドハラスメント(職場での二次被害)です。この二重被害は表面化しにくく、社会全体での認識も十分とは言えないため、被害者をより深刻な孤立に追い込んでしまいます。
今、もしあなたが悩みのなかにいても、この文章は「あなたのため」に書いています。あなたが一人ではないと感じられますように。
日本では2020年6月に「改正労働施策総合推進法」が施行され、いわゆるパワハラ防止法が大企業に義務付けられ、2022年には中小企業にも拡大適用されました。現在は企業規模を問わず、すべての事業主にハラスメント防止措置が義務付けられており、「相談したこと」を理由とした解雇・降格・不利益な配置転換なども禁止されています。
それでもなお、被害者を守るべき制度や窓口が、時に新たな苦しみを生み出してしまう現実があります。また、セカンドハラスメントはSDGs(持続可能な開発目標)の「働きがいも経済成長も」「ジェンダー平等」「不平等の是正」といった目標とも深く関わります。人権を守る取り組みを欠いた企業は、法的リスクだけでなく、社会的評価や採用力・ブランド力を大きく損ねる可能性があるのです。
法律や制度が整ってきても、実際に「守られている」と感じられるかどうかが本当の安心に繋がります。制度の「形」だけでなく、「心」も大切です。
この記事では、「セカンドハラスメントとは何か」「職場で起こりやすい二次被害の具体例」「会社・上司・労働局や社外機関への相談方法」「被害者本人と周囲ができる対処法」までを、被害者の視点にも寄り添いながらやさしく解説していきます。
セカンドハラスメントとは
セカンドハラスメントとは、ハラスメント被害を相談した際に、被害そのものではなく「相談したこと」によって新たな嫌がらせや不利益を受けることを指します。これには、単に相談内容が漏れてしまう場合だけでなく、周囲から「被害者側に非があるのでは」と責められたり、信じてもらえないことなども含まれます。
海外では「二次被害(secondary victimization)」として研究が進んでおり、犯罪被害者や性暴力被害者の支援の現場でも広く知られた概念です。被害を打ち明けたあとに否定されたり責められたりすると、うつ病や不安障害、仕事への意欲低下など、心身とキャリアに長期的な悪影響が出ることが繰り返し指摘されています。
日本の職場でもこれと類似の現象として、相談者が会社の同僚や上司、人事部などから適切な共感や行動を得られず、精神的に再び大きな打撃を受けているケースが少なくありません。特に上下関係が強く「和」を重んじる職場では、「波風を立てる人」とみなされてしまうこともあります。
重要なのは、セカンドハラスメントは特定の人だけに起きる問題ではないということです。女性だけでなく、男性、性的少数者(LGBTQ)、障害を持つ従業員、さらには外国籍従業員なども同様の二重被害を受けている事例があります。むしろ「男性だから弱音を見せるな」という偏見や、「立場の弱い派遣社員だから声を上げるべきではない」という無意識の差別が、深刻に作用するケースも多いのです。
さらにもう一つの問題は、企業の「内部通報制度」や「ホットライン」があるにもかかわらず、十分に信頼されていない現実です。相談内容が守秘義務を徹底せずに加害者本人に伝わってしまったり、組織内の派閥や利益関係のために握りつぶされることすらあります。このように「救済制度」自体が二次加害者となってしまうことは、極めて深刻な課題です。
セカンドハラスメントは、被害者の尊厳を奪うばかりでなく、勇気を出して声をあげた人に「二度と声をあげまい」という強烈な心理的メッセージを与えてしまいます。その結果、多くの被害が水面下に押し込められ、表面化しないまま放置されることになります。
セカンドハラスメントの具体例
セカンドハラスメントの具体的な形は多様です。単なる冷たい態度から、明確な制裁措置に至るまで幅広く存在します。ここでは職場で実際に起きやすいシーンを例示します。
- 被害者が上司に相談したところ、「そんな小さなことを問題にするのは大げさだ」と突き放された。
- 同僚から「また会社を巻き込むの?」「自分も同じ目に遭ったけど我慢している」と非難された。
- ハラスメントの事実を調べるどころか、相談者に「なぜ録音していなかったのか」と責任転嫁した。
- 窓口に相談したはずが、翌日には加害者や同僚に広まっており、逆に職場で孤立した。
- 人事担当者から「証拠が不十分だから何もできない」と取り合ってもらえなかった。
- 会議で「君の発言で職場の雰囲気が悪くなった」と周囲から圧力を受けた。
これらは表面的には「悪意のない対応」と装われることが多く、加害者意識が薄いため、指摘をしても改善が難しい場合があります。実際には「何もしない」「軽視する」ことが、被害者にとっては新たな傷を作り続けています。
例えば、性差発言を受けた女性社員が勇気を出して訴えたところ、人事から「男性上司に指導できないから異動したらどうか」と言われたケースがあります。この場合、加害者は何も責任を取らず、被害者だけが職場を追われるという不条理が生じます。
つまりセカンドハラスメントとは、組織全体が加害者側の利益を守るように作用し、弱い立場の人がさらに苦しむ構図なのです。
セカンドハラスメントが起こる背景
なぜセカンドハラスメントが起きるのか。その要因には複数の社会的・組織的背景があります。
- 日本特有の「事なかれ主義」が大きく関わります。組織の和を乱さず、穏便に済ませることが優先されるため、被害者の声より「穏便に片付けたい」という空気が先立つのです。
- 上下関係の強さや年功序列が背景にあります。上司や目上の者に対する批判は許されにくい文化のため、被害を訴える行為自体が「反抗的」「協調性に欠ける」と受け止められがちです。
- 企業の相談窓口や内部通報制度の実効性不足があります。外部独立機関と連携していなければ、公平性が保てず、結局は会社の都合を優先してしまうリスクが高まります。
海外と比較すると、日本はまだ「匿名性の確保」や「独立した第三者調査」の仕組みが十分とはいえません。欧米の多くの企業では、外部機関による調査やホットラインの運用が一般的で、相談者の匿名性を守りながら事実確認を行う制度的なセーフティネットが整備されています。一方、日本では社内の力関係や「事なかれ主義」が優先され、制度があっても実際には声を上げづらい環境が残っているケースも少なくありません。
あなたの声が「未来のルール」や「より良い職場文化」を作るきっかけとなるかもしれません。遠慮せず、必要に応じ社外の支援先も積極的に利用していきましょう。
つまり、セカンドハラスメントは「誰か1人の悪意」からだけではなく、社会全体の価値観や組織文化によって生じる構造的問題でもあるのです。
セカンドハラスメントの影響
セカンドハラスメントは、被害者本人だけでなく企業や社会全体にも深刻な影響を与えます。
被害者への影響
- 精神的ダメージ:二重被害の継続により、うつ病、不安障害、PTSDを発症する危険性が高まる。
- 身体的影響:強いストレスが続くことで、不眠、胃炎、高血圧、自律神経失調症を悪化させるケースがある。
- キャリアへの影響:耐えられず退職、異動を余儀なくされることで、職歴に傷がつき、将来のキャリア機会を狭める。
企業への影響
- 離職率上昇:優秀な人材流出が止まらず新規採用コストが増大。
- 組織の生産性低下:被害者だけでなく職場全体が沈黙し、不信感が広がりモラルハザードが起こる。
- 訴訟・賠償リスク:労働訴訟や損害賠償による経済的損失。
- 企業ブランド失墜:SNSや口コミでの負の評判が広がり、顧客離れに直結。
どんなに暗い状況でも、必ず回復への道はひらかれます。あなたの負った傷は「あなたのせい」ではありません。回復する権利も、未来を選ぶ自由も、誰にも奪えません。
さらに社会的影響として、働く人の多くが安心して声を上げられなくなると、結果的に職場全体の創造性や労働意欲が減少し、日本全体の生産性にも響きます。つまりセカンドハラスメントは「企業内の問題」にとどまらず、日本社会全体の持続可能性を脅かす要因といえます。
セカンドハラスメントの予防対策
ここでは、企業が取り組むべき予防対策を社内体制・教育・ルールの観点から整理します。
社内体制の整備
- 独立した相談窓口を複数設置し、匿名性を担保。
- 守秘義務を徹底し、相談内容の漏洩リスクを最小限に。
- 外部専門家(弁護士、産業医、臨床心理士)との連携体制を整備。
従業員教育の強化
- 年1回以上の全従業員研修でセカンドハラスメントをテーマに扱う。
- 管理職向けにはロールプレイ形式で「正しい傾聴態度」をトレーニング。
- eラーニングで、無意識の偏見や加害者心理についても理解を深める。
社内ルールの策定と徹底
- ハラスメントおよびセカンドハラスメントの定義を明確化し、就業規則に明記。
- 違反が発覚した際の処分基準(減給・降格・懲戒解雇)を具体的に設定。
- 発生事例や是正措置を社内に周知し、抑止力を高める。
制度を運用する側も受ける側も、「ここなら大丈夫」「相談してよかった」と心から思えるためには、言葉だけでなく日々の小さな「行動の積み重ね」が大切です。
最も重要なのは、制度を「形だけ」で終わらせないことです。従業員が「ここなら相談しても守られる」と実感できる環境を整えることで、初めてセカンドハラスメントは予防できます。
セカンドハラスメント事例集と教訓
実際にあった事例をもとに、どこに落とし穴があり、どう対処すればよかったのかを考えます。
事例1)新入社員が上司からの継続的な侮辱発言に悩み、勇気を持って人事に相談したが「まだ研修中で経験が浅いせい」と一蹴され、その後職場で「告げ口をした」と噂になり孤立。
【教訓】相談担当者は固定観念で対応してはならず、必ず事実確認や傾聴を行う仕組みが必要。
事例2)女性社員がセクハラを匿名で通報したが、加害者の推測が社内で広がり、「あの人じゃないか」と詮索する雰囲気になり、結局本人が自主退職。
【教訓】匿名性確保や詮索防止のため、通報窓口の設置基準・教育の徹底が不可欠。
事例3)小規模オフィスで、上司・同僚からの冷たい態度・業務外しが数ヶ月後まで続いた。精神的に追い詰められ、休職ののち退職。
【教訓】組織全体で「声を上げた人を支える」メッセージ・サポート体制を日頃から根付かせることが必要。
勇気を出した人だけでなく、「そっと寄り添う」仲間や同僚の存在も、心の支えとなります。支えてくれた誰かに、感謝の気持ちを伝えてみることも回復の一歩です。
他にも、SNSで相談内容が噂になって拡散し、「社外にも恥が知れた」と二重のダメージを受けた例や、逆に勇気を持って証言してくれた同僚の存在によって回復できた例もあります。いずれの事例からも、「仕組み」だけでなく「現場の温かい対応」と「教育・啓発の継続」が鍵であるといえます。
社外リソース・専門機関の活用法
職場内で孤立し、声を上げても状況が変わらないときは、社外に頼ることも重要です。代表的な活用先と、その内容を紹介します。
- 労働局の総合労働相談コーナー
都道府県ごとに設置されており、匿名相談や無料アドバイス、必要に応じて指導や助言も受けられます。初めて相談する場合も親身に対応してもらえるので安心です。会社の相談窓口に話したあと、不利益な扱いを受けた場合も相談の対象になります。 - 弁護士会の法律相談
地元の弁護士会や法テラスで、セクハラ・パワハラに強い弁護士と相談が可能です。初回無料や低額で利用できる場合もあり、法的措置や証拠の残し方も指南してくれます。 - NPO・支援団体
女性のためのホットライン、LGBTQ支援団体、精神疾患や労働問題専門のNPOなど、各種専門団体が相談窓口を設けています。「公的機関に行きにくい」「社外の当事者同士に話を聞いてもらいたい」場合も大きな力になります。
頼ったことで「迷惑かも」と感じる必要はまったくありません。あなたが一人で抱え込まないことが、大切な一歩になります。
こうした場所を利用することは、決して「大げさ」でも「逃げ」でもありません。制度の壁や職場の無理解で孤立したとき、一人でも多くの味方と繋がることが回復のきっかけになるのです。
セカンドハラスメントへの対処法
ここでは被害者本人、周囲の同僚・上司がとれる具体的なアクションをまとめます。
被害者本人ができること
- 被害や対応経緯を日付・時系列で詳細に記録する。
- 上司や人事部に抗議し、改善措置を正式に要求する。
- 労働局の総合労働相談コーナーや外部NPOに相談する。
- 弁護士に依頼して法的手続きを検討する場合には、労働審判や民事訴訟も選択肢となる。
同僚や上司ができること
- 被害者に「あなたの声を信じる」という明確なメッセージを伝える。
- 加害者行為を目撃した場合は、その場で「不適切だ」と指摘する。
- バイスタンダー・インターベンションの知識を活用し、黙認せず行動する。
バイスタンダー・インターベンションには、例えば「Distract(話題を変える・場を変える)」「Delegate(信頼できる上司や人事に相談を頼む)」「Document(日時・内容をメモしておく)」「Delay(その場の後で被害者に声をかけて気持ちを支える)」「Direct(安全を確保しながら不適切な行為をはっきり止める)」といった5つの方法があります。完璧な対応でなくても、「見て見ぬふりをしない」という小さな行動が、被害者にとって大きな支えになります。
「あなたを一人にはしません」。職場でただ一人でも信じて応援してくれる人がいることが、どれほど大きな支えになるか。あなたの存在が、誰かにとっての希望になります。
意外に大きな力を持つのは「たった一人の理解者の存在」です。被害者が深刻な孤立から抜け出すためには、周囲の共感とサポートが生命線になります。だからこそ、同僚や上司が黙って見過ごさない態度が、被害者の救済そのものにつながります。
まとめ
セカンドハラスメントは、単なる「相談後の行き違い」や「誤解」ではなく、新たに人権を侵害する重大な行為です。被害者が二重に苦しめられる現実を放置すれば、企業は人材流出、訴訟リスク、評判低下といった深刻なダメージを受け、社会全体の生産性や健全性も損なわれていきます。
経営者にとって、従業員を守ることはコストではなく投資です。安全で尊重し合える職場環境があってこそ、人材は能力を最大限に発揮し、企業の競争力を高めます。そして従業員にとっては、「見て見ぬふりをしない」小さな一歩が、仲間を救い、未来の自分を守る力になります。
もう一度、胸を張って――「あなた自身を大切に」「仲間を信じて」。その一歩が、誰かを救い、きっと社会全体にも波紋が広がっていきます。
自分は何もできないと感じている方も、一人として孤立してはいけません。行動することで、ハラスメントのない職場が少しずつ実現できます。少しの勇気と、手を差し伸べる心。その輪が広がれば、「被害者」も「自分も」守れる社会が必ず生まれます。
セカンドハラスメントQ&A:傷つきに気づき、心を守るために
Q1. セカンドハラスメントを受けているかどうか、自分ではっきり分からないときはどう考えたらいいですか?
A. 「自分が弱いだけなのでは」と感じてしまうときほど、出来事を感情と切り離して見つめ直すことが助けになります。いつ、誰から、どんな言葉や態度があったのかを書き出してみると、「単なる意見」ではなく「自分の尊厳を傷つける行為」だったと整理できることがあります。また、「同じことを大切な友人や家族にされたらどう感じるか」と想像してみると、自分の受けた行為の重さを、少し客観的に捉えやすくなります。
Q2. 相談した相手から心ない言葉を返されて、とても傷つきました。もう誰も信じられない気がします。
A. 勇気を振りしぼって相談したのに、その一歩を踏みにじられたように感じるのは、ごく自然な反応です。「信じた自分が悪かった」と自分を責めがちですが、問題があるのは、傷ついた人に寄り添えなかった側の姿勢であって、あなたの相談という行動そのものではありません。いまは無理に誰かを信じようとせず、「あのときの自分は精一杯だった」と、自分の味方になってくれる自分を少しずつ育てていくことが、回復の土台になることがあります。
Q3. 「そんなのハラスメントじゃない」「大げさだ」と言われて、自分の感覚に自信がなくなっています。
A. 他人の基準を押しつけられると、自分の感じた痛みが否定されたようで、とても苦しいものです。ハラスメントかどうかを最初に判断するのは、マニュアルではなく、日々その場で生きているあなた自身の身体感覚や違和感です。その感覚を「なかったこと」にしてしまうと、自分を守るための大事なアンテナまで鈍ってしまうことがあるので、「嫌だったものは嫌だった」と心の中で改めて認めることが、一つの整理のステップになります。
Q4. セカンドハラスメントを受けてから、仕事への意欲も自信もなくなりました。元のように働ける日が来るのでしょうか?
A. ハラスメントとセカンドハラスメントは、仕事のスキルではなく「人として尊重される感覚」を深く傷つけます。そのため、一見関係なさそうな業務の場面でも、「また否定されるのでは」と身構えてしまい、以前のように力を発揮できなくなることがあります。回復は一直線ではなく、良い日とつらい日を行き来しながら少しずつ進むことが多いので、「前と同じ自分に戻る」よりも「傷つきを抱えたままでも、今の自分なりに進めている部分」を見つけていく視点が、心を守る助けになります。
Q5. 周囲から「波風を立てた人」のように見られている気がして、とても居づらいです。
A. 問題を指摘した人が「場の空気を悪くした人」と扱われるのは、セカンドハラスメントの典型的な構図の一つです。その場を黙ってやり過ごすこともできたなかで、あえて声を上げたというのは、職場の健全さを守ろうとした行動でもあります。「自分はトラブルメーカーだ」という物語ではなく、「不合理を見過ごせなかった人」という別の物語を、自分の中で静かに持ち直していくことが、心のバランスを取り戻す助けになることがあります。
Q6. セカンドハラスメントを見聞きした同僚として、何もできなかった自分を責めてしまいます。
A. その場で動けなかったことに後悔が残るのは、それだけ不公正さを敏感に感じ取れる感性を持っている証でもあります。実際には、立場や力関係、自分の安全への不安など、さまざまな要素が絡み合い、理想通りには動けないことがほとんどです。「何もしていない自分」ではなく、「心の中でおかしいと思えた自分」から出発し直せると、少しずつ、次に同じような場面に出会ったときの自分のあり方を考えやすくなっていきます。
Q7. 会社の制度や窓口に不信感があり、どこにも安心して話せる場所がないように感じます。
A. 助けを求める先そのものに不信感を持たざるを得ない状況は、それだけで二重三重の孤立感につながります。「制度がある」と「信頼して頼れる」は別物で、仕組みが整っていても、そこに関わる人の姿勢次第で、安心感は大きく変わります。いま、「安心して話せる場所が見当たらない」と感じている自分の感覚を否定せず、大切なことを話せる場がどれほど貴重かを理解している自分を、少しだけ労わってあげられると良いかもしれません。
Q8. 「自分もどこかで誰かを傷つけていたかもしれない」と思うと、加害・被害という言葉が重く感じます。
A. 人との関わりのなかで、知らないうちに誰かを傷つけてしまう可能性は、誰にでもあります。だからこそ、「自分は絶対に加害者にはならない」と思い込むよりも、「もし相手が傷ついていると知ったとき、どう向き合いたいか」を考えられることの方が、ずっと大切になってきます。自分の行為を振り返ろうとしている時点で、すでに「無自覚な加害」を減らそうとするスタート地点に立っているとも言えます。
Q9. セカンドハラスメントの話を読むと、自分の体験がフラッシュバックしてつらくなることがあります。読まない方がいいのでしょうか?
A. 情報に触れることで過去の記憶がよみがえり、身体がこわばったり、気分が一気に落ち込むことがあります。それは、心身が「これ以上は負担が大きい」と教えてくれているサインでもあり、決して弱さの証ではありません。無理に知識を増やそうとするよりも、「今日はここまでにしておこう」と線を引ける自分でいることが、結果的に長い目で見たときの回復や学びを支えることにつながる場合があります。
Q10. 今の職場でこれ以上頑張るべきか、環境を変えるべきか、気持ちが揺れて決めきれません。
A. 心が大きく揺れているときは、「どちらが正解か」という二択で自分を追い詰めてしまいやすくなります。実際には、「今は様子を見る」「心身の状態を立て直すことを優先する」など、白黒では割り切れない選択肢も本当は存在しています。どの道を選ぶにしても、その時点の自分なりに状況を受け止め、悩みながら考え抜いたプロセスそのものが、後々の自分の支えになっていくことがあります。
Q11. セカンドハラスメントの話題を、職場の人と共有したい気持ちと、反応が怖い気持ちの両方があります。
A. 伝えたい思いと、再び否定されるかもしれない不安のあいだで揺れるのは、とても自然な葛藤です。このテーマは、人によって立場や価値観が大きく異なるため、どんな反応が返ってくるかを完全にコントロールすることはできません。だからこそ、「誰に、どこまで話すか」を自分のペースで決める権利は、あなたの側にあることを心のどこかに置いておけると、少し息がしやすくなるかもしれません。




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